消費者志向トップインタビュー

第30回 消費者庁長官 堀井奈津子氏(2026.3.19公開)

聞き手 ACAP理事長 坂田祥治

プロフィール ほりい なつこ

1990年労働省(当時)に入省。2011年から2013年にかけての消費者庁消費制度課長在任時は、消費者契約法や公益通報保護法に従事。2025年7月に消費者庁長官に就任し現在に至る。

2025年7月に消費者庁長官に就任された堀井奈津子氏に、長官として心掛けていること、消費者志向経営の取り組み、ACAPへの期待などお話を伺ってきました。インタビューは、消費者庁長官室で行われました。

2025年12月19日収録

法令や制度を分かりやすく伝えることが重要

インタビューは和やかな雰囲気でスタート

坂田理事長 7月にご就任されて初めての会見で、「消費者庁が所管する法令について、厳正かつ適切に執行、運用する。それから国民の皆様に対して分かりやすく説明をしていく。」と述べられていました。あらためてお考えをお聞かせください。

堀井長官 消費者庁が設立した当時は、いろいろな省庁が所管する法律に基づいて、消費者行政に取り組んでいました。今でもそういう一面はありますが、そのために省庁と省庁の間の隙間に入ってしまい、対応が遅れ事態が悪化したというような事案がありました。そうした反省を踏まえて、平成21年(2009年)に消費者庁ができたという経緯があります。2026年に17年目を迎えます。

設立時は、各省庁からいろいろな法律と人材を一気に持ってきて組織を立ち上げました。そのときの関係者の熱意や努力や苦労があり、その後も、新しい法律の制定や改正を積み重ねてきています。ですから、消費者庁が所管している法令について、厳正、適正、かつ適切に執行するというのは、当然のことだろうと思っています。

また、消費者庁は、多岐にわたる分野を扱い、それぞれの分野に関係法令があります。生命・身体・そして財産など、これらに対して多大な影響を及ぼすようなリスクもありますので、そうした制度を消費者により分かりやすく、繰り返しお伝えし、理解してもらえるよう心がけていくことは、何よりも大事だろうと考えています。

ラストワンマイルをどう届けるか

一つ一つの質問に丁寧に答える 堀井長官

坂田 消費者に情報を確実に届けることも重要ですね。先日、別の機会に堀井長官がおっしゃっていた「ラストワンマイル」のお話にも通じるのではないでしょうか。事業者としても非常に大切なポイントだと感じています。

堀井 新しいニュース性のある情報ばかりが取り上げられがちですが、発信したからと言ってまんべんなく周知されるわけではありません。繰り返し、分かりやすく伝えるということを心がけて情報を発信しています。毎週行われる長官会見でもそのことを意識しています。

ACAPや会員企業の皆さまにも、ラストワンマイルで確実に情報を伝えていくために、ご協力いただけると大変ありがたいです。

坂田 消費者に最も近い事業者団体として活動するACAPとしても、積極的に協力していきたいと思います。

価値観や環境の変化を踏まえ、重点課題に取り組む

坂田 消費者の価値観や生活環境が大きく変化しています。高齢化や単身世帯の増加、デジタル化の進展など、こうした環境変化を踏まえて、今後特に注力していく課題について、お聞かせいただけますか。

堀井 新たに第5期の消費者基本計画が策定されました。今後5年間は、その基本計画を、フォローアップしながら、着実に進めていきます。基本計画は多岐にわたる項目があり、さまざまな要素が重なり合って、非常に濃くなっている部分に対応していくことが重要だと思います。

例えば、消費者契約法を中心にパラダイムシフトについての検討を行い、これをベースに、具体的に、何らかの制度に落とし込めるかという議論を現在行っています。また、特定商取引とデジタル化に着目した検討会も立ち上げます。それぞれ長官として設置する検討会で、有機的、総合的に、同じ考え方のもとに進めたいと思います。科学技術の変化や、消費者取引をめぐる市場の変化などを踏まえて発想を転換し、消費者が安心して取引できるようにするためには何が必要なのか、そういう問題意識を持って取り組んでいます。

法令や制度の検討というと、企業の方は、「新しい規制ができて負担が増えるのではないか」と思われるかもしれませんが、消費者ときちんと向き合っている企業が、消費者から選ばれてビジネスを続ける、そうしないと、我が国の市場全体が持続可能ではなくなってしまいます。消費者庁としては、より良い取り組みをしている企業にはメリットがあるということを伝えていかなくてはいけないと思っています。

消費者志向経営推進に向けた行政・企業・消費者の役割や連携

消費者志向経営のメリットをもっと周知したい と話す堀井長官

坂田 消費者志向経営を一層推進するために、行政、企業、消費者が、それぞれの立場で果たすべき役割や必要な施策について、考えをお聞かせいただけますか。

堀井 消費者庁で実施した調査(12月公表の消費生活意識調査)では、消費者志向経営の認知度は、まだ15%程度です。ただ、消費者志向経営という言葉は知らなくても、商品購入や価格の許容度、就職や求職、取引や投資などへの意向を見ると、消費者志向経営に取り組んでいる企業に対して、消費者は好意的だということは明らかです。消費者志向経営の具体的なメリットをもっと周知する必要があると思っています。

そのために、行政としては、事業者とのコミュニケーションを強化し、「消費者志向自主宣言企業」を増やしていきたいですね。宣言のハードルは高くなく、「取り組む」という意欲や姿勢を示すことに重きを置いています。企業が取り組みやすい環境を整備していくことが、行政に求められることだと思います。

坂田 消費者志向自主宣言については、企業風土や企業ごとの特性によって、いろいろなアプローチの仕方があるということですね。

堀井 そうですね。取り組みやすいこと、あるいは、取り組むことでアドバンテージがあることから取り組んでいただくとよいですね。そして、その取り組みが横展開されることで、商品やサービスの品質向上につなげていくことが非常に重要です。宣言するにあたって多少手間がかかることもありますが、「いろいろな形でメリットがありますよ」ということを伝えていきたいと思います。

また、やはり企業のトップが経営方針に反映させることが重要です。企業の取り組む姿勢が分かりやすく伝わります。取り組んでいる企業を消費者志向宣言企業としてつなげ、より優れた取り組みをしている企業は表彰して、好事例を横展開していきます。消費者のためということもありますが、企業の従業員自身が、そういう企業に働いているということを誇りに思い、エンゲージメントが高まるという効果も期待できるのではないかと思います。

一方、消費者は、消費者志向経営に取り組んでいる企業を、さまざまな場面で積極的に選択肢に入れていただきたいです。そうした好循環につながる施策を考え、進めていきたいと思います。

坂田 そのような点からも、「消費者志向経営優良事例表彰」は消費者志向経営の推進において非常に有効な方法ですね。表彰事例やフォローアップ活動の事例は、ACAPとしても活用して、消費者志向経営のメリットを広めていきたいと思います。

消費者庁幹部とACAP会員企業役員との懇談会

消費者庁幹部とACAP会員企業役員との懇談会

坂田 その取り組みの一つとして、「消費者庁幹部とACAP会員企業役員との懇談会」を毎年開催しています。今年度も開催しました。長官はじめ幹部の皆さまにも多数ご出席いただき改めて感謝申し上げます。ACAPとしても非常に有意義な会議となりました。

堀井 あれだけの規模の会議ですから、準備は大変だったと思います。でも、お忙しい中、多くの企業の皆さんにお越しいただけたのは、ありがたいことですね。

坂田 ありがとうございます。今回、参加する会員企業や役員の方を広げたいという思いから、これまでより規模を拡大して開催しました。実施後の参加者アンケートでも、大変満足度が高く、企業の方々からは、「消費者庁幹部の皆さまから直接、政策やその背景についてお話を伺える機会はなかなかないので、大変ありがたかった」という声が多く寄せられました。さらに懇親交流会で、個別に会話できたことも高く評価していただきました。

会員企業の役員の方々が消費者志向経営の重要性を再認識される機会となり、私たちとしても、今後の活動が進めやすくなります。消費者庁の皆さまには、今後もぜひご協力をお願いしたいと思っています。

堀井 懇談会後の懇親交流会でも、「こういう場で、参考になるお話を具体的に聞けるのがメリットです」とおっしゃっていた方がいました。行政が提供する話だけでなく、各社が取り組んで苦労した事例など、「なかなか理解を得られなくて苦労したけれど、こうやって頑張っている」とか、「こういう工夫で乗り越えた」という話がとても参考になると聞きました。また、懇親交流会のような場では、苦労話も聞きやすくなりますし、人脈も広がりますね。業種を超えた取り組みという点でも、ACAPの今後の活動に期待しているところです。

坂田 それから懇談会の冒頭に、堀井長官が「消費者制度課長時代に、ACAPの率直なコミュニケーションを見て、感動に近い驚きがあった」と発言されていたのがとても印象的でした。

堀井 そうですね。消費者相談窓口とか、消費者担当の方たちは、企業の中でも、消費者マインドが強い方たちだと思いますが、ACAPの皆さんが活発な意見交換をしていて、すごくびっくりした記憶があります。

消費者との新たな関係構築、ACAPが進めるCX

坂田 こうした消費者志向経営の推進に加え、ACAPとしては、消費者との新たな関係構築にも力を入れています。具体的には、「CXイノベーションを巻き起こす」という活動コンセプトを掲げています。これは、消費者とのあらゆるコミュニケーションの接点において、単に商品を選んでもらうだけではなく、その先にある感動と信頼を生み出すことを目指そうというものです。5年前からこの方針を掲げ、2030年に向けて取り組んでいます。

企業としてはこうした領域までしっかり取り組む必要があると思います。実際、企業においてはこの取り組みを消費者対応部門に期待する考えが高まっていると感じています。

堀井 そのような取り組みは、消費者に寄り添うという点でとても良いですね。

坂田 消費者庁で実施されている消費生活意識調査も大変参考になります。今、社会で何が起きているのか、消費者がどう感じているのか、といったことを確認しながら、消費者との信頼関係を築いていきたいと思っています。

堀井 ご活用いただければありがたいと思います。ただ、国の調査はどうしても継続性を重視する部分があり、テーマ選定にも制約もあります。ACAPで、より具体的な分野やテーマについて深掘りされると、お互いに有用なデータを共有できるのではないかと、お話を伺って感じました。

坂田 ありがとうございます。ぜひ、調査の分野でも連携をお願いいたします。

ACAPに期待すること

堀井長官は、「ACAPには、具体的な事例や研究成果 を実践につなげることなど幅広く期待する」と話した

坂田 最後に、ACAPに対する期待など、メッセージをいただけますでしょうか。

堀井 まずは、45年間、本当に長きにわたり取り組んでこられたというところに、敬意を表したいと思います。「消費者に最も近い消費者志向事業者団体」。この言葉はピンとくるというか、納得感があると思います。

消費者志向経営に企業が取り組むにあたって、概要や大きな方向性の情報共有は重要ですが、「こういうことをやっていけばいいんだな」とか、「こういうメリットがあるんだな」という気づきを得られるような具体的な事例は、大事な情報だと思います。ACAPには、そのような情報共有を続けていただきたいと思います。

それから、研究活動においても、本当に興味深いテーマを取り上げていると思います。そうした研究活動の成果を、研修のような実践の形に落とし込んでいく、そんなことも期待します。もう一つ、いろいろな形でコミュニケーションを取り、行政の制度や施策についてご意見をいただける機会はありがたいです。

坂田 私どもからもぜひお願いしたいと思います。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

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