消費者志向トップインタビュー

第29回 独立行政法人国民生活センター 理事長 村井正親氏(2026.1.20公開)

聞き手 ACAP理事長 坂田祥治

プロフィール むらい まさちか

1989年3月東京大学法学部卒業、1989年4月農林水産省入省(この間、農林水産省や消費者庁、内閣官房等において様々な役職を歴任)、2022年6月農林水産省経営局長、2024年7月退職、2025年6月独立行政法人国民生活センター理事長

2025年6月に理事長に就任された村井正親氏に、就任されてから数か月がたった今の心境や消費者行政への思いなど、お話を伺ってきました。インタビューは、国民生活センターの一室で行われました。

2025年10月28日収録

就任5か月を振り返って

坂田理事長(ACAP) 就任されて約5か月が経ちました。農林水産省でのご勤務が長い中、消費者庁にも在籍されていましたが、国民生活センターで消費者行政に関わることになった経緯についてお話くださいますか。

村井理事長(国民生活センター) 私はもともと農林水産省に採用され、35年余り、公務員として勤務しました。水産や林野の業務にもそれぞれ一度ずつ関わりましたが、基本的には農業分野の業務に携わってきました。消費者庁での勤務は1年間でしたが、消費者行政を取り巻く状況を肌身で感じながら仕事をする経験をさせていただきました。

理事長の公募に応募するにあたって、国民生活センターの中期目標・中期計画を勉強しましたが、消費者・事業者・行政機関との連携の重要性を改めて実感しました。農林水産省での行政官としての経験もセンター運営に活かせると考え、応募し選任していただきました。

職員が使命感を持って仕事に取り組んでいる組織

「職員一人一人が使命感を持って仕事に 取り組んでいる」と語る村井理事長

坂田 実際に国民生活センターの理事長に就かれて、組織について、今どのような印象をお持ちですか。

村井 職員が使命感を持って仕事に取り組んでいると感じています。国民生活センターは独立行政法人であり、相談事業や商品テストなどを通じて得られる情報を社会に還元し、消費者トラブルを未然に防ぐことが役割です。こうした業務は職員一人一人の努力と研鑽の積み重ねによって成り立っており、人こそが最大の財産だと感じています。理事長としては、その力をいかに発揮してもらうかが最も重要だと考えています。

坂田 国民生活センターの業務についても教えてください。

村井 全国の消費生活センターに寄せられる相談情報を当センターで集約・分析し、さまざまな形で活用しています。自治体の相談員だけでは対応が難しい案件も多く、当センターはバックアップ機能を果たしています。全国から集めた情報は「PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)」に蓄積され、年間おおむね90万件前後の相談情報が登録されますが、それらを分析し、社会の動向を把握して関係機関に提供しています。

来年9月、PIO-NETを刷新

「PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク システム)」刷新イメージ  *国民生活センターHPより

坂田 現在、重点的に取り組んでおられる課題は何でしょうか。

村井 喫緊の大きな課題は「PIO-NET」の刷新です。来年9月から新システムを稼働させる予定で、現在開発を進めています。新システムでは、クラウド化して、消費者がオンラインでFAQを利用して自己解決できる仕組みを整えるほか、相談員が蓄積情報を活用して迅速な対応ができるよう、ナレッジ機能を充実させたシステムを構築していきます。

現在のシステムから円滑に移行できるよう相談員の研修も丁寧にやっていくつもりです。より多くの国民の皆さんに役立つシステムを目指していきます。

坂田 大規模なシステム開発になりそうですね。新システムでは、AIの活用も考えているのでしょうか。

村井 将来的には重要な課題として考えていかなくてはなりません。AIの活用はもはや欠かせないものになってきています。AIを「どう使うか」ではなく、「どう一緒に仕事をしていくか」という段階に来ています。AI技術の進化のスピードは非常に速く、こうした変化に継続的に対応する体制を作ることが重要です。

また、デジタル技術の進展に伴い、消費者トラブルが複雑化、高度化してきています。そうした消費者トラブルと対応するためには、最新技術の状況をキャッチアップしつつ、情報収集のスピードアップを図るため、各自治体との連携を密にし、全国レベルで迅速に対応できる体制を整える必要があります。

デジタルツールの活用、情報リテラシー教育の重要性

各メディアの特性に合わせて、デジタルツールを活用 *国民生活センターHPより

坂田 情報発信について、デジタルツールの活用についてもお聞かせください。

村井 当センターもSNSなどを通じて積極的に消費者啓発を行っています。広報部を中心に工夫を重ね、デジタルツールを活用して多くの人に情報を届けています。各メディアの特性に合わせて、X(旧Twitter)やInstagram、YouTube、Facebookなど、発信方法を工夫することが重要です。若い世代にはデジタルツールを通じて、高齢者には従来のマスメディアも効果的に活用しながら、情報を届けています。

坂田 SNSの利活用においては、情報リテラシーやフェイクニュースの課題があります。今年夏に訪れた北欧で、情報リテラシー教育の現場を視察しました。子どもたちが遊びながら情報への向き合い方を学んでいて、とても関心しました。こうした課題についてはどのようにお考えでしょうか。

村井 フェイクニュースや、正しいかどうかがわからない情報が拡散する現状では、情報リテラシーがますます重要です。正しいかどうか判断する前に、「何かおかしい、間違っているかもしれない」といった感覚を身につけることが大事になると思います。

JAXA宇宙科学研究所相模原キャンパス特別公開2025に出展

違法な電動アシスト自転車の体験コーナー

坂田 新しい取り組みについても、何か具体的な事例があればご紹介いただけますか。

 当センターの相模原事務所の近隣にJAXA宇宙科学研究所相模原キャンパスがあります。「JAXA相模原キャンパス特別公開2025」の屋外展示スペースに、テスト機器や違法自転車などを展示し、危険性を体験してもらう企画を行いました。こうした他機関との連携を今後も積極的に行い、当センターの取り組みを広く知っていただきたいと思っています。

 消費者に国民生活センターの活動を知っていただく良い機会だったと思います。今後も期待しています。

正確な情報を国民一人一人に迅速に届ける

坂田 今後、国民生活センターとして特に力を入れていきたいことや、課題と感じていることがあればお聞かせください。

村井 消費者のニーズは多様化しており、常に新しい問題に対応していく必要があります。例えばIoT機器の安全性やAIの活用によるリスクなど、予測しにくい課題に備えることも求められています。当センターは、消費者が安心して生活できる社会を作ることが使命です。テクノロジーの進化にも柔軟に対応し、正確な情報を迅速に届けることが重要です。また、体験型の学びの場を広げることで、次世代への教育にも力を入れていきたいと考えています。

ホームぺージに掲載されている「見守り新鮮情報」

坂田 消費者に向けて、本当に多くの情報発信をされていますね。「見守り新鮮情報」など拝見しています。

村井 高齢者、障がいのある方向けの情報発信ということで取り組んでいます。消費者の安全安心のための情報提供に日々努めていますが、国民一人一人に情報を届けるのは非常に難しい面があります。消費者全員が必ずしも積極的に情報を入手しようとするわけではありませんし、消費者団体を通して消費者に情報を届ける仕組みも限界があります。本当の意味で、全ての国民、消費者にきちんと情報を届けるのは難しいことですが、これからも根気よく取り組んでいきます。

坂田 具体的にはどのような方法で情報を届けているのですか。

村井 『見守りネットワーク』を活用していくことが重要です。ネットワーク関係者に情報を届け、それぞれの地域のネットワーク内で、高齢者や障害を持つ方々に伝えてもらう形です。消費者庁とも連携しながら、より多くの方に情報を届ける仕組みを作っていきたいと思っています。SNSを使った発信についても、どうやったら閲覧してもらえるか、閲覧数を増やしていけるかがこれからの検討課題です。

若手職員の柔軟な発想と発信力に期待

村井理事長は「若手職員の柔軟な発想と 発信力に期待している」と話す

坂田 行政の現場でも、若手職員の発信力を生かした取り組みがあると伺いました。どのような内容なのでしょうか。

村井 農林水産省では、公式チャンネルとは別に『BUZZ MAFF(ばずまふ)』というYouTubeチャンネルがあります。国民の皆さんに農林水産業や食品問題への関心を持ってもらうため、若手職員がチームを作り、半年単位で動画を企画・制作しています。

 国民生活センターでも若手職員のアイデアや発信力を生かした取り組みを検討されていますか。

村井 若手職員のセンスや感性を活かせる余地は大きいと思います。正確でわかりやすい情報をできるだけ多くの人に届けるために、若手職員の力や新しいアイデアを取り入れながら、より効果的で魅力的な情報発信を目指していきたいと思います。

坂田 効果的で魅力的な情報発信という点で、SNSや動画だけでなく、地域との連携も重視されていると伺いましたが、その点についてもお聞かせください。

村井 その通りです。地域の団体や自治体と協力して、受け手の立場に立った情報提供を心がけることが重要です。例えば、高齢者向けの注意喚起情報でも、地域の民生委員や福祉団体を通じて伝えると、より確実に届きます。情報は正確であることはもちろんですが、届かなければ意味がありません。

坂田 若手職員のアイデアを地域連携にも生かすことは可能でしょうか。

村井 可能ですし、ぜひそうしたいと考えています。若手職員は新しい発想やSNSの活用方法に長けています。地域の実情に合った情報発信や、従来の行政の枠にとらわれない手法を模索するのに力を発揮してくれるはずです。

ACAPへのメッセージ

「ACAPが取り組んでいる『消費者志向経営推進 の支援』は大変重要」と熱いメッセージをいただいた

坂田 最後に、ACAPへのメッセージをお願いできますか。

村井 消費者との信頼関係の構築、より良い社会を構築していく上で、ACAPが取り組んでいる「消費者志向経営推進の支援」は、大変重要なものだと思います。これからも、そういったマインドで、活動を続けていただきたいと思っています。

坂田 本日は、国民生活センターのお取り組み、村井理事長の消費者行政への熱い思いをお聞きすることができ、貴重な時間となりました。誠にありがとうございました。

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