消費者志向トップインタビュー

第23回 アスクル株式会社 代表取締役社長CEO 吉岡 晃氏

聞き手 ACAP理事長 村井正素

プロフィール  よしおか あきら

1992年株式会社西洋環境開発入社。2001年アスクル株式会社入社。メディカル&ケア担当執行役員、取締役BtoCカンパニーCOO、株式会社チャーム代表取締役会長などを歴任し、2019年アスクル株式会社代表取締役社長CEOに就任。

東京・豊洲にあるオフィスでは、豊かな植栽と、おなじみのアスクルキャラクター「アスクル坊や」が迎えてくれました。2021年7月の消費者志向自主宣言に続き、2022年3月にISO 10002自己適合宣言をされたアスクル株式会社。吉岡社長からは説得力のあるお言葉をいただき、有意義な対話となりました。

 2022年6月22日収録

パーパス、バリューズ、DNAの3点セットがアスクルらしさ

緑あふれるエントランス

村井理事長 2020年に、パーパス(存在意義)、バリューズ(価値観)、DNAで構成されるASKUL WAYを策定されたと伺っております。どのようなお考えでいらっしゃるのか、まずはそこをお聞かせいただけますでしょうか。

吉岡代表取締役社長 われわれには元々DNAとして、「お客様のために進化する」という企業理念がありました。これは今も不変なのですが、創業者から私がバトンを引き継ぐことになったときに、社長が誰になっても企業理念で動いていく、パーパスで動く会社に変えていかなければならないと思いました。

これまでは創業者のカリスマ性に依存してきた面がありましたが、これから先はみんなが自律的に判断して動けるような形にしなければいけない。「お客様のために進化する」という企業理念は、アスクルパーソンとしての働きざま、生きざまを語っていると思うのですが、その進化する先に何をするのか、社会に対してどういうことを果たしていくのか、それを決めていかなければならないと思ったのです。

また、社員が自律的に意思決定し、判断していくためには、その価値観はシンプルに定義しておかないといけません。そうでないと共通言語にはならないからです。それで、私自身がアスクルにいて感じたことや、社員アンケートの結果、プロジェクトメンバーの意見などを総合して、今まで語られてきたことをバリューズという形に凝縮しました。DNAがあって、その進化の先にどういう責任を社会に果たすのかというパーパスがあり、その実現のために大切にしていくバリューズがある。この三点セットでアスクルらしさを維持していく。アスクルパーソンの立ち返るところ、よりどころとして策定したのです。

村井 社員の皆さま1人1人が、日々の判断のよりどころとして、シンプルな価値観を共有されているという姿は、本当に素晴らしく、そうありたいと感じます。

ベースにあるのは倫理感

村井 新たな生活様式が定着し、デジタル化が急速に進んでいます。社会環境や、お客様のニーズの変化の速度も増していると感じます。そういった状況のなかで、商品やサービスにおいて、何を大切に対応されていらっしゃいますか。

吉岡 私は重要な変化が3つあると思っています。1つは、今まさにおっしゃったテクノロジーの変化。シンギュラリティという言葉もありますが、変化のスピードがこれまでとは格段に違ってくる。すさまじい急角度で上昇している。もう1つは人口減少の問題。あと1つは気候変動です。

こういった変化のなかで、どのようなサービスを提供するのか。何をベースに置かなければいけないのか。最も大事なのは倫理観だと思っています。確かにテクノロジーは人の生活を便利にしました。テクノロジーの歴史が人類の歴史だと思っていますが、同時に人の悪いところも目覚めさせたのではないでしょうか。コロナ禍でそのことをすごく感じました。買い占め、転売、粗悪品、人を騙してお金を儲ける……店舗では起きなかったことも、インターネット上で横行してしまった。eコマースはすごく便利で重宝されていますが、こうした悪行もしやすい。だから、転売みたいなことができないようにするとか、医療機関にしか消毒液は売らないなど、そういう制限をかけました。こうした経験から、企業がベースにしなければならないのは倫理観ではないか。そう思うようになったのです。きちんとしたものを、きちんとした形でご提供する、それがわれわれの責務なのです。

サステナビリティを意識した商品開発~トップシェア企業の責任として

企業としての倫理観やサステナビリティを重視することで生まれた商品について語る吉岡社長

村井 倫理観をベースにした商品やサービスについて、少し詳しく教えていただけますか。

吉岡 それはやはり品質です。品質には、製造過程、労働環境、サステナビリティの環境対応なども含まれます。CO2の削減だったり、労働問題への寄与だったり、そういうサステナビリティを意識した商品開発が求められています。ビッグデータを使って、お客様の声を総合的に見て、メーカーと一緒になってそれを分析し、新しい商品を作っていく。デジタルベースのお客様の購買行動を見ながら、データをメーカーにフルオープンにしてサステナビリティを意識した商品開発を進めているのです。

また、今盛り上がっているのがGo Ethical(ゴーエシカル)です。例えばメーカーが新しい商品に仕様変更する。すると、商品の品質とは関係のない理由で捨てられるものがたくさん出ます。Go Ethicalは、それを使ってもらおうという取り組みです。メーカーを束ねて、みんなでプレスリリースしたり、ムーブメントのような仕掛けを作ったりしています。お客様に対しては、日常生活のなかでアスクルから商品を買うことで環境負荷を下げていますよ、そして、結果としてちゃんとした品質のものを買っているんですよ、ということが伝わるようにする。

さらに、われわれが持っているバリューチェーンのなかではせめてCO2をゼロにしようと、物流センターの再生可能エネルギーを100%にする、自社のドライバー、配送トラックを100%EV(電気自動車)にする、ここからやろうじゃないかと始めたのです。

商品に関してもう1つ言うと、コピー用紙の市場ではトップシェアを持っているのですが、10年以上前から、コピー用紙を1箱売るたびに木を2本植えています。紙が売れたら植樹をして、育てて、植樹したものでまた自分たちの紙を作る。そういった循環型の仕組みを作っています。これはトップ企業の責任としてやっています。最近はこれをプラスチックにも広げ、クリアホルダーも自前のトラックで商品をお届けした際に回収し、再びクリアホルダーにしたり、ボールペンにしたり、プラスチックの循環を実証実験しているところです。

村井 データもフルオープンにして、ステークホルダーと一緒になって進めていかれるという姿勢に、非常に感銘を受けました。

宣言によって自ずと律する

村井 2021年7月の消費者志向自主宣言に続き、2022年3月にはISO 10002自己適合宣言をされました。宣言後の変化やお客様対応のお取り組みについてお聞かせいただけますか。

吉岡 コロナ禍を経験して、われわれのスタンスはどうあるべきかを考えたとき、品質とお客様を第一に考えることだとあらためて感じました。そういった姿勢を内外に宣言し、公的に認めていただくことで、社内でもそれに恥じない行為をしていかなければならなくなる。

宣言後はガバナンス体制のなかで品質マネジメント委員会を設け、中期経営計画でも品質KPIを定めました。「プロミスブレイク」と言っていますが、こうした言葉を定着させ、月度で詳細を報告して、良いところも悪いところも明らかにし、それを数値化して目標を定めています。品質に関しては定期的にPDCAを回せるようになってきました。1年もたてば、成果として底上げされてくると思っています。情報セキュリティや環境など、他のISOも取得していますが、いずれも定期的なPDCAは必須になりますし、当然フォローアップもきちんと報告しなければならない。必然的にそこに意識がいくようになるわけです。社内で従業員向けの定期的なeラーニングが始まるなど、仕組みとして回り始めたと感じています。

村井 先ほども少しお話が出ましたが、持続可能な社会を実現するために、特に力を入れておられる取り組みについてお聞かせください。

吉岡 中期経営計画の中にも入れていますが、脱炭素社会に向け、CO2をサプライチェーン全体でどれだけ下げることができるかに力を入れて取り組んでいます。環境スコアのようなものを商品ごとに入れていこうという話もしています。

それと物流をうまく使った資源の循環など、循環型のさまざまな取り組みや、お客様の手間を省きながら環境にもよい環境対応型商品の開発、そういうトレードオンのサービスを強めていきたいと思っています。

ペットボトル飲料のラベルも本当に必要かと考え、初めて当社がラベルレスの商品を開発しました。分別する手間がなくなり、お客様の家事負担にも貢献できました。トイレットペーパーの2倍巻き、3倍巻きも、当社が初めて商品化したのです。取り換える頻度が減り、値段が上がるわけでもない。テレワークが普及し、新たなライフスタイルになることによる家事負担増が起きています。暮らしをより良くしながら、働きやすく、環境負荷もトレードオンで減らせるか、そこに挑戦していきたいなと思います。みんながハッピーになる知恵をどんどん絞っていきたいですよね。

村井 素晴らしいですね。お客様の手間を省きながら環境にも良い、まさにWin-Winの典型的なお話だと感じました。

消費者志向経営とは企業としての倫理観、そしてお客様への誠意

アスクルキャラクター「アスクル坊や」の前で記念撮影。頭上に垂れているのは稲穂。「実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」という言葉にちなんで、「常に謙虚でいることを忘れないように」という想いで掲げているそう

村井 最後に、吉岡社長のお考えになる消費者志向経営とは何か、そして私どもACAPへの期待がございましたらお聞かせくださいますか。

吉岡 消費者志向経営のベースは企業としての倫理観だと思います。企業は何のためにあるのか。社会の公器という言葉がありますが、そこに立ち返ったときに、本当に大事なことは何か、やってはいけないことは何か、そこを常に忘れないことです。また、常にお客様に対して誠実である、お客様に対して必ず真摯に対応する、これに尽きると思います。

また、ACAPへの期待ですが、会員企業数が500社というのはすごく大きい。ACAPには業種を超え、各社のさまざまなノウハウが結集していると思うのです。それをできるだけオープンにしていただくことで、世の中が良くなる、そう思います。弊社はお役に立つことなら情報を出すのは全然、かまいません。隠さずにどんどん発信していきます。

村井 さまざまな取り組み事例などの情報を共有し、お互いに高め合っていくというACAPの活動の重要性をあらためて認識し、身が引き締まりました。ありがとうございました。

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