消費者志向トップインタビュー

第24回 株式会社ロッテ 代表取締役社長執行役員 牛膓栄一氏(2023.3.15公開)

聞き手 ACAP理事長 村井正素

プロフィール  ごちょう えいいち

1960年神奈川県生まれ。1983年ロッテ入社。2008年ロッテ商事 営業統括部執行役員、2015年同社常務取締役、同年ロッテホールディングス取締役(兼任)、2016年ロッテ商事 代表取締役専務(兼任)、2018年4月傘下の3社が合併し、新会社ロッテ代表取締役社長執行役員就任。

 

「パイの実」や「雪見だいふく」でおなじみ 株式会社ロッテの牛膓社長を訪ねました。お客様第一主義を掲げた経営と、食を通した社会的課題の解決に積極的に取り組まれ、令和3年度消費者志向経営優良事例表彰の消費者庁長官表彰を受賞されています。 牛膓社長自ら案内してくださった新宿の本社オフィスは明るく、固定席のないフリーアドレス。「ここからどんなお菓子が生まれるのだろう」と思わせる自由な空気にあふれていました。

 2022年12月22日収録

3つのロッテバリュー

村井理事長 御社のお名前を聞くと、「お口の恋人ロッテ」というフレーズが真っ先に思い浮かびます。この社名に込められた想い、企業理念、大切にされているお考えなどについてお聞かせいただけますか。

牛膓代表取締役社長 ロッテという社名は文豪ゲーテの『若きウェルテルの悩み』に登場する「シャルロッテ」という女性の名前に由来します。コーポレートメッセージの「お口の恋人」にも、「永遠の恋人シャルロッテのように、長く愛される会社に」という想いが込められています。企業理念には、「ロッテバリュー」として「ユーザーオリエンテッド」、「オリジナリティ」、「クオリティ」この3つを掲げています。「ユーザーオリエンテッド」はお客様の立場になって考えるという意味です。これはACAPにも通じるものですね。2つ目は「オリジナリティ」。弊社は1948年の創業で、業界の中では後発になりますから、独創性がないと競争に勝てない。そこで、オリジナリティを大事にしています。3つ目は「クオリティ」、最上の品質です。品質保証は全従業員で厳格に取り組んでいます。

私は40年近くこの業界に携わっていますが、菓子やアイスは、栄養や健康はもちろん、人々の心をも豊かにできると自負しています。そういう価値を提供し続けられるよう、日々努力をしているところです。

ロッテノベーションで社会課題にチャレンジ

飾らないお人柄とエネルギッシュなお話に、あっという間に予定の時間が過ぎた

村井 御社の製品は名前を聞くだけで、そのおいしさはもちろんのこと、パッケージまで思い浮かべることができるものが多いです。それは、私たちにとって長い間、大好きなものとして身近に在り続けているからこそだと思います。消費者志向自主宣言を公表されていらっしゃいますが、消費者のニーズに合った、長く支持される製品を提供し続けるために、大切にされていることはどのようなことでしょうか。

牛膓  3つのロッテバリューのうち、お客様の求めているものは何かを最優先で考える「ユーザーオリエンテッド」、この価値を重要視しています。これが消費者志向に当たるわけです。1つ例をあげますと、1997年に発売したキシリトールガムです。社会やお客様が求めるのはやはり「健康」ですよね。お菓子がむし歯の原因になるというそれまでの常識を覆し、チューインガムで歯を丈夫で健康に保つという新しい価値を提供しました。さらに「むし歯のない社会へ。」という世の中の課題解決につながりました。このようにイノベーションによって社会課題を解決することを弊社では、「ロッテノベーション」と呼んで、邁進しています。

ロッテノベーションで大切なのは、やはりお客様の意見を聞くことです。お客様相談室には日々、たくさんのご意見をいただきます。昔はどちらかというと商品に対する苦情や不良への対応がメインの部署だったのですが、昨今は励ましのご意見や商品に対するご要望が増えています。

村井 それは素晴らしいことですね。お客様からの励ましのご意見やお褒めの声は、私たち働く者にとってかけがえのないもので、ESが向上し、さらにそれがCS向上にもつながっていくと感じています。

牛膓  「このようなお菓子を作っていただいてありがとう」など、1つ1つのお声をお客様相談室からマーケティング部門や営業部門、生産工場部門へ伝えていくのですが、社員のモチベーションがものすごく上がる。一方で、悪いことも全部聞き、そして正す。悪いニュースを一番先に持ってこれるようなフラットな環境にしてこそ、消費者に一番近い会社であり、消費者志向経営だと思うのです。今、会社としてお客様との距離をとても大事にしています。

村井 お客様のご意見が反映された商品として、どのようなものがございますか。

牛膓 お客様の声から生まれた商品はたくさんあります。たとえばアレルギーの方が非常に増えていますが、それに対応して、植物由来のミルクを使ったアイスクリームを発売しました。心からの喜びやお礼のメッセージをいただくこともあり、私たちの活動が社会に貢献していることを実感し、お客様との結びつきを感じます。

キシリトールガムで虫歯予防と健康寿命の延伸に取り組む

自治体とも連携し、「キシリトールサーバー」を保育園や幼稚園に提供。幼児期からの口腔ケア習慣の定着を促す取り組みを行っている

村井 日々、素晴らしいお取り組みを積み重ねられていらっしゃいますが、その結果として令和3年度の消費者志向経営優良事例表彰の消費者庁長官表彰を受賞されました。「食と健康」の観点での研究と啓発活動が高く評価されたと伺っております。

牛膓 消費者行政のトップから表彰をいただき、感無量でした。今回評価をいただいた具体的な理由は2つあり、1つは歯科医師会や自治体と連携してキシリトールを配合したチューインガムを用い、「ガムはむし歯になりやすい」という概念を覆すむし歯予防に取り組んでいること。もう1つはチューインガムを通じて「噛むこと」による口腔機能の改善を図り、介護予防・認知症予防など健康寿命の延伸を目指す取り組みも行っていることです。

弊社では、ESGの観点から、2028年までの中期目標として5つのマテリアリティ(重要課題)を明確にして、取り組みを行なっています。5つとは「食の安全・安心」、「食と健康」、「環境」、「持続可能な調達」、「従業員の能力発揮」です。この中の「食と健康」は、歯と口の健康のためにキシリトールを生活に取り入れている人(国内)の割合を2028年までに50%以上に拡大することを目標としております。また、国内で噛むことを意識して実践する人の割合を2023年度までに35%以上、2028年度までに50%以上に拡大することを目標に掲げています。

村井 健康な歯で、しっかり噛むことは、健康にとって、とても重要なことなのですね。

牛膓 予防歯科の先進国であるフィンランドでは、キシリトールを摂る習慣が根付いていて、虫歯の罹患率がものすごく低いのです。フィンランドにならい、キシリトール入りのタブレットやラムネが入った「キシリトールサーバー」を幼稚園などに置く運動も進めています。自治体からも推奨いただき、福島県会津若松市を筆頭に、北海道、青森、千葉など全国6カ所に置いています。保育園などで導入されると、保護者にも広がり、次第に地域全体で良くなっていきます。

食育活動を通じて感動体験を届けたい

中世の学校をイメージした見学施設

牛膓 食育活動の一環として、噛むことを習慣化するための「めざせ!かむことマスター」という教材を作り、お申込みをいただいた小学校に無償配布して、先生に授業を行っていただく活動を2022年度から始めました。その他、工場見学も重視しています。新型コロナウィルス感染拡大防止のため、2020年2月から2022年4月まで工場見学を休止していましたが、再び来場者様へ感動体験をさらにお届けできるよう、休止期間中に浦和にある見学施設の大規模リニューアルを行いました。メインテーマは「学び」で、見学施設も中世のヨーロッパの学校をイメージしています。実際に稼働している工場ですから、中に入れないところはガラス越しに見えるように、またご覧いただけないところはデジタル映像で見えるようにしています。このコースは非常に人気がありまして、学校枠では2023年3月までに100校、4500人以上のお申し込みをいただいています。

村井 お話を聞いているだけでも、夢があって楽しそうですね。

牛膓 小学校5~6年生を対象に出張授業もやっています。2022年度は70校以上の小学校で授業を行いました。授業では「イノベーションチャレンジ」というのをやっています。簡単にいうと掛け合わせです。例えば、アイスクリームとペットボトルを掛け合わせたら「クーリッシュ」ができました。今あるものに全く違うものを掛け合わせて新しい価値を生み出す考え方です。「雪見だいふく」はお餅とアイスクリームの掛け合わせ、「トッポ」はビスケットとチョコレートの掛け合わせですね。弊社はそういう商品が非常に多いですが、これをイノベーションのヒントにして子供たちに考えてもらうんです。子供にとってお菓子は身近なものですから、一生懸命考えます。私も「コアラのマーチ」のコアラを模して、コアラの耳をつけて出張授業の先生をやりましたよ。チョコレートとあれを掛け合わせたらどうなるとか、アイデアがどんどん出てくる。この授業も人気があって、多くの学校から来てほしい、と言われています。

村井 社長自ら出張授業の先生となって、率先して取り組まれていらっしゃるのですね。

カカオ豆の持続可能な調達に取り組むフェアカカオプロジェクト

カカオ豆

村井 御社は未来に向けて、持続可能な社会の実現に向けたお取り組み、環境や社会に配慮した事業活動を推進されていますが、その中で、特に力を入れていらっしゃることについてお教えいただけますか。

牛膓 お菓子やアイスを中心に取り扱っている会社として大事にしているのは原料のサステナブルな調達ですね。カカオ豆、パーム油、紙などいろいろありますが、最も重視しているのはカカオ豆です。カカオ豆の生産地には貧困や児童労働といった問題があります。カカオ豆を供給していただいている私たちには、農家の方々の幸せまできちんと考える義務があります。そこで、弊社では、調達する生産地域を指定し、そこから調達するカカオ豆に一定の割増金(プレミアム)を上乗せして支払います。その割増金がその地域における児童労働のモニタリングと支援に使われていきます。このように調達したカカオ豆をフェアカカオと名付けて、その調達割合を2025年までにガーナ産の豆で100%、2028年には全てのカカオ豆で100%に拡大していく目標を掲げています。

原料の問題では、他にもトレーサビリティや農園の子供達の就学支援など、いろいろと考えていますが、商社やNGOの皆さんとも協力して一緒にやろうと、今、その仕組みづくりをしているところです。

人々に支持され、必要とされる企業を目指して

本社内の「ロッテ・インサイト・センター」(LIC)を案内してくださった。LICは「明日の買い物行動を作る」をテーマに、売り方のイノベーションを提案し、菓子全体の需要拡大を目指すために開設された。甘い香りが広がるスイーツのお店のよう!

村井 最後に、社長がお考えになる消費者志向経営と、私どもACAPへの期待をお聞かせいただけますか。

牛膓 この3~4年で大きく世界が変わりました。地球温暖化、気候変動によるさまざまな変化。加えて、コロナ禍で生活様式もワークスタイルも全く変わりました。社員の50%しか出社しないなんて、以前は考えられないことだったのに、今はそれが普通になった。そして、地政学的な問題も身近になりました。昭和の時代を生きた我々ですら、既存概念が崩れ落ちていく時代です。これから主役となるZ世代、アルファ世代と言われる人たちは、自分なりの生き方、個性を持っています。平和やサステナブルな社会を希求し、そういう価値判断で、物事を選択していくでしょう。

昔は、弊社でも「いい商品を作って宣伝を人一倍かければ売れる」、「営業はとにかく並べる。並べた数は売れる」といったことが言われていて、そうやって成長できたのかもしれません。しかし、今はもうそれでは通用しない。Z世代、アルファ世代といわれる人たちの新しい価値観を捉え、共感していただけるような商品を提供すること、持続可能な地球環境の実現に尽力し、社会から必要とされる企業でなければなりません。それには、 我々だけでは気づきにくい視点がたくさんあります。業種を超えた企業の集まりであるACAPが旗振り役となり、こうした多様な消費者との向き合い方、1人1人の声をキャッチするコミュニケーションの在り方、企業の目指すべき姿など、多くの事例やヒントを共有していただくことで、新たな社会につながると期待しています。

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