消費者志向トップインタビュー

第26回 アフラック生命保険株式会社 代表取締役社長 古出眞敏氏(2024.2.15公開)

聞き手 ACAP理事長 村井正素

プロフィール こいで まさとし

1960年東京都生まれ。1984年東京大学法学部卒業。1984年株式会社日本長期信用銀行入行。1990年6月ニューヨーク州弁護士登録。1998年11月アフラック※入社。コンプライアンス・検査部長、執行役員、統括法律顧問、コンプライアンス・オフィサーを務め2006年3月アフラック※退社。2006年4月シティバンク、エヌ・エイ在日支店入行。2006年12月日興アセットマネジメント株式会社入社、2008年12月アフラック※入社、執行役員。2017年7月日本における代表者・社長、2018年4月アフラック生命保険株式会社、代表取締役社長。
※アメリカン ファミリー ライフ アシュアランス カンパニー オブ コロンバス(日本支店)

令和4年度消費者志向経営優良事例表彰 消費者庁長官表彰の他、これまでにもACAP消費者志向活動表彰「消費者志向活動章」を2年連続で受賞されるなど、消費者志向経営を牽引されるアフラック生命保険株式会社の古出社長を訪ねました。明るく、広いフロアの一隅で行われたインタビュー。フリーアドレス制で社長専用室も設けていないとのこと。行き交う社員の方々の明るく、生き生きとした様子が印象的でした。

2023年12月5日収録

がん保険の道を日本で切り開く

がん保険のパイオニアとして、がんや医療などに関する社会的課題を、さまざまなステークホルダーと連携・協業して包括的に解決したいと力強く語る古出社長

村井理事長 2024年に日本における創業50周年を迎えられるとお聞きしております。おめでとうございます。改めて御社の企業理念やビジョンについてお聞かせいただければと存じます。

古出社長 当社は、「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という想いのもと、1974年に日本で初めてがん保険を提供する会社として創業しました。また、お客様をはじめとするさまざまなステークホルダーに対する約束を果たしていくという姿勢を「The Aflac Way」として掲げ、必要とされるときに必ずお客様のそばでお役に立つとの約束を果たすことに、全力で取り組んでいます。それらを受け継ぐとともに、企業理念やブランドプロミス「『生きる』を創る」にも表されるコアバリュー(基本的価値観)に基づき、CSV経営を実践してきました。

村井 半世紀前と今では、医療体制や社会のシステム、人々の価値観も大きく異なるのではないでしょうか。

古出 創業当時は、「がん」という言葉を口に出すことすらはばかれる時代でした。本人にも告知をしない。そのような中で、がん保険は成り立つのかという声もありました。当初は日本の生命保険会社との提携を模索したのですが、提携先は見つかりませんでした。そこで、単独進出に向けて奔走したのですが、前例のない保険商品ゆえ、大蔵省(当時)だけではなく、厚生省(当時)からも承認を得なければならないなど、事業認可取得の道のりは困難を極めました。日本進出決意から4年、1974年10月にようやく認可を取得し、翌月、日本初のがん保険とともに営業を開始しました。

村井 今では身近になったがん保険ですが、お話をお伺いして、当時の「がん」という病気に感じていたイメージを改めて思い起こし、現在との違いを実感しました。

古出 がん保険からスタートしましたが、その後、世界発の痴ほう介護保険をはじめ、終身医療保険や就労所得保障保険など、お客様や社会のニーズにお応えする商品・サービスを提供してきました。そして、2018年4月2日には、日本法人「アフラック生命保険株式会社」になりました。

「生きる」を創るリーディングカンパニーへ

古出 創業50周年を迎える2024年に向け「Aflac VISION2024」を策定し、ビジョンに「『生きる』を創るリーディングカンパニー」を掲げました。保険はもちろん、保険以外のサービスも合わせて提供することで、お客様の「生きる」をトータルに支える、「生きる」を創るリーディングカンパニーになることを目指しています。

村井 お客様をトータルで支えていくというお気持ちは、企業理念の1つに掲げていらっしゃる「お客様第一」にも表されています。

古出 お客様を大切に思うコアバリューを基に、2017年2月に、「消費者志向自主宣言」を公表しました。2022年9月には、消費者志向経営の推進に向けて内容を見直し、名称も「お客様志向自主宣言」に変更しています。保険契約関係者から、一般の生活者まで広範を指して「お客様」としている当社の実態に鑑みてのことです。「お客様志向自主宣言」では、持続可能性の高い社会の構築に向けて、お客様全体の視点に立ち、健全な市場の担い手として、自らの社会的責任を自覚し、お客様志向の取組みを推進することを宣言しています。

村井  消費者志向自主宣言のフォローアップ活動にも大変積極的に取り組まれていらっしゃいますね。

古出 取組み結果は定期的にオフィシャルホームページで公表しています。昨年は11月に公表しました。2022年からは簡易に取組み結果の全貌を把握できる量にまとめておりますが、詳細を確認したい方のために、統合報告書の該当ページもご案内しています。

お客様の声に基づく業務改善・サービス向上に向けた取組み

商品パンフレット、保険証券、ご契約内容の概略のお知らせにフリーダイヤルを明記するなど、お客様からお申し出いただきやすい仕組みづくりに努めていると話す古出社長

村井 御社の商品は社会的にも広く認知され、さまざまなお声が日々寄せられることと存じます。お客様の声をどのように経営に活かされていますか。

古出 お客様の声は貴重な経営資源です。どのように経営や業務に活かしていくかは、まさに経営そのものだと思っています。全国の営業拠点をはじめ、コールセンター、ホームページ、来店型店舗を含む全国のアソシエイツに寄せられるお申し出の中から、「苦情」、「相談・要望」、「感謝」に分類して「お客様の声」としてデーターベース化し、全役職員が常時アクセスできるようにして業務改善に役立てています。お客様の声に基づく業務改善について審議・報告する場として、「お客様サービス推進委員会」を設置し、重要事項については私に報告があり、決定をします。お客様サービス推進委員会の下には、より実務的な事項をタイムリーに審議する「お客様サービス推進部会」があり、迅速に業務改善につなげる体制をとっています。

社会全体でがん患者の方を支える「キャンサーエコシステム」

村井 さまざまな優れたお取組みをされている中で、消費者庁が実施する令和4年度消費者志向経営優良事例表彰において、消費者庁長官表彰を受賞されました。選考理由となった「キャンサーエコシステム」についてお聞かせいただけますか。

古出 当社は創業以来、がん患者の方々やそのご家族のお役に立ちたいという想いのもと、保険商品の提供だけではなく、日本初の「がん電話相談」の開設、小児がん経験者やがんで親を亡くした高校生のための奨学金制度や小児がんの子どもたちとそのご家族への支援活動などに取り組んできました。2018年には、当社が事務局を務め、医師、看護師、がん患者団体の代表者、医療に関する社会学者など、各界の有識者に集まっていただき、「『がん患者本位のエンゲージメント』を考える会」という研究会を立ち上げました。この研究会で約2年かけて議論してきた内容を、提言としてまとめた報告書「『がん患者本位のエンゲージメント』を目指して~がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン~」が2021年1月に株式会社日経BPから発行されています。この中で提言されている3つのビジョンと10のアクションが、その後のアフラックの事業や社会貢献活動のベースとなっています。大切なのは医療機関、職場、保険会社、自治体などそれぞれががん患者を支えていくのではなく、さまざまなステークホルダーが連携・協業しながら、社会全体で支えていくことです。当社では、がんに関する社会的課題を包括的に解決する大きな仕組みとして「キャンサーエコシステム」の構築に取り組んでいます。

最新治療やがん診断前後にも保険範囲を拡充

古出 2022年8月に発売した<「生きる」を創るがん保険 WINGS>では、がんと診断される前の精密検査費用やがんゲノムプロファイリング検査費用、患者申出療養として実施された療養など、最新治療の保障に加え、早期発見・早期治療を支援する保障も提供しています。また、がん保険に「経験者保険料率」を導入し、がんを経験された方にも、がんを経験されていない方と同じ保障をお届けできるようになりました。

「よりそうがん相談サポート」の提供を開始

古出 さらに2023年1月から、「アフラックのよりそうがん相談サポート」の提供を開始しました。がんかもしれないと思ったときから、治療中、治療後の日常生活に至るまで、お悩みや不安を、看護師などの資格をもった相談対応の経験豊富な「よりそうがん相談サポーター」が傾聴し、適切な情報を提供したり、必要とされるサービスにつないだりします。サービス開始以来、既に4,000件を超えるご相談が寄せられていて、ワンストップサービスとして、これだけの数のご相談を受けるのは、日本でもトップクラスだと認識しています。

村井 ACAPでも、お客様のお申し出に答えるだけではなく、お客様に寄り添い、その背景まで知る努力をすることが大切ではないかと常々話題になります。ご相談者の言葉の奥にある想いまで深くお聞きする仕組みを作られていることに、大変感銘を受けました。

学校や職場でのがんの教育啓発活動

小児がんの子どもたちを応援するために米国で開発されたアヒル型ロボット「My Special Aflac Duck」とACAP消費者志向活動章の盾

古出 キャンサーエコシステム構築に向けた取組みとして、がんを経験された方やそのご家族を支える相談施設である「開かれた相談の場」への支援、小児がん・AYA世代がんの啓発と支援、がんについての正しい理解と、学校教育現場でのがん教育支援、がん経験者の就労支援などが挙げられます。就労支援は、治療と仕事を両立して働き続けられるよう、まずは弊社内で率先して取組み、関心のある他の企業とも連携しながら共に活動し、社会全体に広げていければと思っています。

村井 お話から、社会課題解決のためには、自社だけではなく、他の企業などと連携して取り組んでいくこと、ひいては社会全体に横展開していくことの重要性を強く感じました。

古出 小児がん・AYA世代がんの啓発と支援の具体的な活動の一部をご紹介しますと、ACAP消費者志向活動表彰「消費者志向活動章」で受章させていただいた、小児がんなどの難病と闘う子どもとご家族を支援する活動「アフラックペアレンツハウス」や小児がんの子どもたちを応援するアヒル型ロボット「My Special Aflac Duck」の寄贈活動などがあります。「アフラックペアレンツハウス」は東京に2棟、大阪に1棟の3拠点を開設しており、「My Special Aflac Duck」はこれまでに1,461羽(2023年11月末時点)を小児がんの治療に取組む病院等に寄贈しています。

DXとアジャイル型の業務運営

村井 商品やサービスが多彩になっていくにつれ、お客様のご期待やご要望も一層高まっていくと思いますが、どのように対応されていらっしゃるのですか。

古出 社会やお客様のニーズが急激に変わっていく中で推進しているのが、デジタルトランスフォーメーションとアジャイル型の業務運営です。デジタルでいろいろなことが簡単にできる時代に、お客様にご満足いただくには、お客様の期待を超える感動的な体験を届けたいと思っています。ホームページで今まで体験したことがないようなことを実現する、業務プロセスそのものをデジタルの活用により根本的に改革するなど、サービスの質をどんどん向上させていくことも大事です。

アジャイルを会社全体の働き方に

古出 アジャイルは元々ソフトウエア開発で使われていた考え方です。大きな事業を数年がかりで取組むプロジェクトでは、現代社会のスピードにはついていけません。一方、アジャイルはお客様やステークホルダーに取組み内容を可視化し、高頻度でフィードバックを得ながら計画や優先順位、アウトプットそのものを柔軟に見直していくことが推奨されています。ですから少しずつ、最小単位の価値を、高頻度に改善しながらお客様に提供し、ニーズを満たします。ゴールが不明確で不安定な環境下においても有効な手法です。現在、社内に13のアジャイルモデルのチームがあります。アジャイルモデルのチームは、部門横断でメンバーを集めますので、各メンバーが所属部門ともコミュニケーションを取りながら、スピーディに新たな価値を創出することができます。チームには、既存組織よりも大きな権限が委譲されていますので、その点でもメンバーのモチベーションがすごく上がっています。

村井 アジャイルモデルのチームでどのようなことを実現されてきましたか。

古出 例えば、年に1度お客様へお送りしている「ご契約内容の概略」のお知らせを、冊子からはがきへ変更しました。「量が多くて読む気になれない」、「どこに何が書いてあるのか分からない」というお声をいただいていましたので、契約内容に合わせて掲載情報をパーソナライズ化し、シンプルで分かりやすい案内にしました。従来の価値観だと、「封書で送っていた情報を、はがきにして大丈夫なのか」という考えになりがちですが、常識にとらわれないアジャイルモデルのチームだからこそ実現できたことです。その結果、お客様調査で、「わかりやすさ」、「情報量」に関して高評価をいただきました。

村井 お客様視点での業務改善を、まさに部門横断的に実現されていらっしゃるのですね。

古出 アジャイルの基本原理を取り入れた働き方を、企業文化として全社に浸透させるべく推進しています。そうすることで、お客様体験価値の向上に加え、保険の枠を超えたイノベーションを一層加速させ、ステークホルダーへの新たな価値の提供に取り組んでいきます。

がんと生きるという社会的課題の解決に貢献

村井 最後に古出社長がお考えになる消費者志向経営とACAPへの期待をお聞かせいただけますか。

古出 がんと生きるという大きな社会的課題の解決に貢献することで、誰もが安心し、健やかに自分らしく生きる社会の実現を目指していきたい、これこそがアフラックの消費者志向経営だと考えています。ACAPには業種を超えて多くの企業が集まっています。お客様志向という共通の目的に向かって情報交換し、高め合っていく。それが実現できる場がACAPだと期待しています。当社もACAPを通じ、広い視点での消費者志向を学んでいければと考えています。

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