第6回 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の要点解説(公開日:2025年4月)
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第6回では2025年4月1日施行となった東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(条例)の要点について見てみましょう。
東京都は、条例、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)、カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(共通マニュアル)の関係性を体系図に示しています。(図1)共通マニュアルを各団体が活用することにより、中小企業における取り組み支援にもつなげる考えに立っています。
条例では、「顧客等の権利を不当に侵害しないように留意」(第5条)した上で、「顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重する」(第3条2項)ことの重要性を示し、東京都、顧客等や就業者、事業者の責務を個別に明らかにしています。就業者の定義としては、公務員やボランティアなどまで広く対象とした点が特徴的と言えます。
消費者の権利については、当コラムにおいてもカスタマー・ハラスメントを正しく理解するために重要であることをお伝えしていますが、ガイドラインの中においても消費者基本法第2条に定める消費者の権利を具体的に示しています(ガイドライン12ページ、【参考】消費者の権利と責任、事業者の責務)。

ここでは、押さえておきたい条例のポイントをお伝えします。
■カスタマー・ハラスメントの定義を明確にした
条例第2条5号「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう」と定義を定めました。
この定義の中で、「著しい迷惑行為」については、条例第2条4号で「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう」と規定しています。
また、ガイドラインにおいては、「就業環境を害するもの」について触れていますが、
「顧客等の要求内容に妥当性がないと考えられる場合でも、就業者が要求を拒否した際にすぐに顧客等が要求を取り下げた場合、就業環境が害されたとは言えない可能性がある」とし、安易にカスハラと決めつけないことも示しています(ガイドライン3ページ、第2 カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項 2 カスタマー・ハラスメントの定義(2)「就業規則を害する」の考え方)。
「就業環境を害する」ことが伴ってはじめて、カスタマー・ハラスメントと定義されるという点が重要です。
■行為者に対する罰則規定は設けていない
条例第4条の見出しを「カスタマー・ハラスメントの禁止」とした上で、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と規定しています。
罰則については設けていませんが、ガイドラインの中で、「当該禁止規定に違反した場合の罰則規定はないが、行為の内容によっては、この条例にかかわらず、法律に基づく処罰等を受ける可能性がある」とし、刑法等による処罰の対象となる可能性や、民法の不法行為責任に基づく損害賠償請求権などが発生する可能性について触れています(ガイドライン1ページ、第2 カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項 1 カスタマー・ハラスメントの禁止(2)禁止の法的効果)。
■事業者が取るべき措置は義務ではなく努力義務に留めている
条例第9条2項で「事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」としています。「努めなければならない」という文言を用いて努力義務に留めています。
事業者が努力義務として行うべきことは、ガイドラインの「第5 事業者の取組に関する事項」において、方針の明確と周知、相談窓口の設置、初期対応の方法や手順の作成、就業者への教育・研修等などを具体的に示しています(ガイドライン18~36ページ)。
現時点(2025年4月)では厚労省の考え方に合わせたものとしていますが、2025年度に国が措置義務とした場合には文言を改めることが考えられます。
■就業者としてもカスタマー・ハラスメント行為をしないことを記載
条例第9条3項で「事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない」としています。
ガイドラインでは、取引先との関係においてもカスタマー・ハラスメントを行わないよう、防止に関する啓発や教育等を行っていくことを求めています(ガイドライン17ページ、第3 顧客等、就業者および事業者の責務に関する事項 3 事業者の責務(5)「就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わない」の考え方)。
【ご参考】
*東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和7年4月1日施行)
*カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)令和6年12月19日
*カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)令和7年3月
*カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(概要版)
*カスタマー・ハラスメント対策マニュアル(ひな形)