カスタマーハラスメント対策特集

ACAPはカスタマーハラスメント対策を考える上で以下3点を前提としています。

  1. 消費者には「消費者の権利」があり、事業者には「責務」が定められています。
  2. 多くは善良な消費者であり、事業者にはその声を商品・サービスの改善、開発さらには 経営に活かすことが求められています。
  3. 事業者としては、初期対応が重要であり、安易にカスタマーハラスメントと決めつけないことが大事です。

一方、不当要求や行き過ぎた行為が行われ、働く環境が害される恐れがある場合、組織としての対応が必要となります。
お客様と従業員とは対等の関係にあります。お客様の尊厳を尊重するとともに、従業員の尊厳を主張することが求められています。
お客様対応は一人で行うことがあっても、難しいお客様に対しては組織で対応します。従業員を決して一人にしてはいけません。そのためにも対応方針を具体的に掲げ、様々なケースを想定した体制づくりが大事です。
このページでは、カスタマーハラスメント対策の取り組み方を正しく知って、働きやすい環境をつくるために支援を行います。

カスタマーハラスメント対策に関するコラム (ACAP専務理事 齊木 茂人) 

長時間対応、暴言などカスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題となっています。2023年秋に労災認定の基準に、カスハラが追加となりました。厚生労働省では事業者に対してカスハラ対策を措置義務とする動きが出ています。このコラムでは、カスハラとは何か、何を準備しどのように対応すべきか、みなさんと一緒に考えたいと思います。

第17回 ケーススタディ「SNS投稿への対応」(公開日:2026年6月) NEW!

前回はセクハラ行為への対応でした。今回は、SNS投稿への対応について一緒に考えてみましょう。

【事例内容】

対応中、お客さまがいきなりスマートフォンを取り出し「このやり取りはすべてSNSに上げる」と言われました。動揺しつつ対応を継続しましたが、お客さまは撮影をやめていただけませんでした。その場では、対応打ち切りの判断もできず、精神的に大きな負担がかかりました。

このような場合、どのように対応すべきでしょうか。

■適法性とハラスメント性の切り分け

今回のご相談は、SNS時代におけるカスタマーハラスメントの一類型と言えます。

「動画を撮る」、「SNSに投稿する」といった言葉により、強い心理的圧力を受け、対応の判断を鈍らせる要因となる可能性があります。

まず、録音や撮影、投稿そのものが直ちに違法となるわけではありません。お客さまに対しては、トラブルの記録として動画撮影や録音などを行うこと自体を強制的に中止させることは難しい場合があります。それらの行為が従業員に対する心理的圧力となり、就業環境が害されるような場合には、カスタマーハラスメントとして評価されます。

重要なことは、お客さまの行為について、「何をしているか」だけでなく「どのように用いられるのか」という点に着目することです。撮影や投稿の示唆が、従業員を心理的に支配し、冷静な対応を困難にしている場合、その言動は看過できません。

SNS投稿をめぐる法的整理(肖像権・施設管理権)

SNS投稿に関連する法的論点を整理してみましょう。

第一に、従業員の顔や言動を無断で撮影・公開することは、場合によっては肖像権の侵害として問題となり得ます。特に、業務とは無関係な形での拡散や、誹謗中傷を伴う場合には、違法性が認められる可能性があります。

第二に、店舗や施設においては、事業者が施設管理権に基づき、撮影行為に一定の制限を設けることができます。店内での無断撮影を禁止する旨を明示している場合には、そのルールに基づいて撮影の中止を求めることができます。

第三に、投稿内容によっては、名誉毀損や信用毀損といった問題が生じます。事実に基づかない内容はもちろんのこと、事実であっても公然と社会的評価を低下させる表現が含まれる場合には、企業として法的対応を検討する必要があります。

このように、SNS投稿は私的行為に見えますが、一定の条件下では法的評価の対象となる「社会的行為」であることを理解する必要があります。

現場で使える「切り返しトーク」

こうした場面においては、従業員が過度に萎縮しないための「切り返しトーク」をあらかじめ共有しておくことが有効です。法的整理でお伝えした点を踏まえて、場面に応じた三つの例をお伝えします。

第一に、店舗や施設における対応の場合、「当社のルールとして、店内での撮影はお控えいただいております。ご理解をお願いします」と明確に伝える方法です。個人の判断ではなく、組織の方針として示すことが重要です。

第二に、訪問対応や電話対応の場合、「投稿につきましてはお客さまの判断となりますが、内容によっては、当社として確認や対応をさせていただく場合があります」と冷静に伝えます。投稿そのものを否定するのではなく、その結果に対する企業の立場を説明する点に意義があります。

第三に、訪問対応の場合、「お客さまが動画に撮ってSNSにあげるとおっしゃるので、私としては冷静な対応ができかねます。本日は失礼いたします」と述べ、対応を中断する伝え方です。すべての対応を継続することが適切とは限りません。状況に応じて対応を中断する判断も必要です。

これらの判断や伝え方は、従業員個人に委ねるのではなく、組織として認めた対応例として共有しておくことが重要です。

組織としての備えとリスクマネジメント

SNSをめぐる問題は、現場対応にとどまらず、企業のリスクマネジメントにも直結します。したがって、録音や撮影、投稿に関する基本的なルールを整備し、カスハラ方針やマニュアルに記載するだけでなく、社内のポータルサイトや社内研修を通じて周知しておくことが求められます。また、従業員が一人で抱え込まないよう、上司や管理職が対応を引き継ぐ体制を整えることも重要です。

一方で、SNSによる発信は、企業にとってリスクであると同時に、信頼構築の機会にもなり得ます。お客さまの撮影すべてを否定的に捉えるのではなく、不当な圧力としての利用と、正当な発信とを峻別する視点が不可欠です。

加えて、従業員側においても、不適切な言動や感情的な対応が結果として顧客トラブルを招き、「カスタマーハラスメント」と受け取られる可能性があることに留意する必要があります。適切な言葉遣いと冷静な対応を心がけることは、従業員自身を守ることにもつながります。

SNS時代の顧客対応においては、「行き過ぎた行為か否か」「違法か否か」だけでなく、「どのような行為が許容されるのか」を見極めることが求められます。従業員を守ることを前提に判断基準を整備することが、顧客対応の質を持続的に支えることにつながります。

【参考として】

  • 肖像権
    個人の容貌や姿態をみだりに撮影・公開されない利益として、判例上認められている権利です。従業員が特定される形での無断公開は、人格的利益の侵害として問題となる場合があります。
  • 施設管理権
    店舗・施設の管理者が、施設内の秩序維持や業務運営のために、合理的な範囲で撮影行為に制限を設けることができる権利です。無断撮影の禁止は、この権利に基づいて行われます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

カスタマーハラスメント対策研修

7月8日【名古屋・半日】カスタマーハラスメント対策研修
8月26日【東京・1日】カスタマーハラスメント対策研修
個別研修
パッケージ
カスタマーハラスメント対策 個別研修パッケージ
お客さま満足の向上に努める中、要求が過剰、不当、理不尽な悪質クレームも発生し、ハラスメントとして応対者の心身にダメージを与える恐れがあります。
この研修パッケージでは、カスタマーハラスメント対策研修、カスタマーハラスメント方針及びマニュアル作成等についての相談、アドバイスをパッケージにしてご提供します。
※年間研修スケジュールはこちら

【厚生労働省】

■労働施策総合推進法の改正(令和7年6月11日公布)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

■顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)について
・カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
・カスタマーハラスメント対策リーフレット
・カスタマーハラスメント啓発ポスター
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html#h2_free12

■あかるい職場応援団
カスタマーハラスメントとは
カスタマーハラスメント対策動画(齊木専務理事登壇)

【消費者庁】

・カスタマーハラスメント防止のための消費者向け普及・啓発活動
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/harassment_from_customer

【東京都】

・東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和7年4月1日施行)
・カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)令和6年12月19日
・カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)令和7年3月
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_jourei/index.html

書籍:現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック

2022年、ACAPに所属する現役お客様対応部門の責任者20名がプロジェクトを結成し、共同執筆しました。各社の豊富な対応経験に裏付けられた実践的なガイドラインです。