第13回 ケーススタディ「脅迫行為への対応」(公開日:2026年1月)

【ご相談内容】

50代・男性、脅迫行為への対応

「最近買った商品のはずだが、一度も使用していない靴の踵が取れた。購入日はよく覚えていない。返金して欲しい」との要求を電話で受け付けました。

着払いでお送りいただき、調べた結果、3年前の商品であることが判明。社内ルールに沿って有料での修理を申し出たところ、憤慨されました。管理者の私に代わった後も、お客さまに寄り添いつつ、何とかご理解をいただこうと説明を続けましたが、15分ぐらい経った頃に突然「お前では話にならん。お前の上司を出せ!殺すぞ!」「今すぐそこに行って暴れてやるぞ!」と言われ、恐ろしくなりました。

お客さま対応部門として、どこまで対応すべきなのか判断が難しいです。

■脅迫行為の判断基準(どこから脅迫かを明確にする)

脅迫と受け取るかどうかは担当者の経験値によって差が出るため、組織として「どこから脅迫として扱うか」の基準をマニュアルなどで明文化しておくと迷いが減ります。たとえば「生命・身体への害を示唆する発言」「来社しての暴力を示唆する発言」など、具体例を共有しておくことが、現場での迅速な判断につながります。

■脅迫行為があれば対応「中断」を判断する

靴の踵が取れた原因は、明らかな経年劣化と組織として判断した上での対応であったようです。お客さまの要求は返金ですが、返金は行わず、有料での修理との対応方針を組織として伝えています。この対応方針に納得いただけないのは仕方ないとしても、「殺すぞ」「暴れてやるぞ」との発言は脅迫に該当する可能性があります。よってこの時点で対応の「中断」を判断して良いケースと言えます。お客さまへの伝え方としては、「お客さまから『殺すぞ』『暴れてやるぞ』との発言がありました。私どもの対応といたしましては、ここまでとさせていただきます」となります。

再入電時に、有料での修理の申し出があった場合には対応を再開することになりますが、暴言や脅迫があったら、切電するという方針を決めておくとよいです。

■中断前にできる「忠告」「警告」の伝え方

上記の対応は、脅迫行為があった際に対応を中断するケースですが、伝え残していることがあるなど、何らかの理由で脅迫行為があっても冷静になっていただきたい場合の伝え方を考えてみましょう。

当コラムでお伝えしている「忠告」「警告」を意識した対応となります。まずは「お客さま、『殺すぞ』とおっしゃいましたが、お控えいただけますでしょうか」と伝えます。それでも暴言や脅迫が続く場合は「お控えいただけなければ、対応を中止させていただくことになります」と警告します。その他「この電話は録音しております」と伝えることで反応を見ることもできます。さらに憤慨した場合は「中断」の判断となりますが、冷静になっていただける可能性もあります。

■脅迫後の組織としての安全対策(中断後の対応)

・来社リスクへの備え
「今すぐそこに行って暴れてやるぞ」との発言がありました。実際に来ることは稀ですが、組織として準備をしておく必要があります。切電後に、総務部など関係部署に情報連携し、来社があった場合の方針を決めます。安全を第一に考えると基本的には会わないという判断になります。警備員が配置されている場合は、警備室と情報を連携しておきます。また警察にも発生状況をお伝えし、何か動きがあれば直ぐに連絡できる体制を整えておきます。

・警察への連絡基準
警察への連絡に関しては「本当に来る可能性がどの程度あるのか」「警察に連絡すると過剰反応になるのか」と迷うケースもあります。その際、①生命・身体の危険を示す発言があった場合、②来社を示唆する発言があった場合、③特定の個人を名指しで脅す場合などは、迷わず警察相談を検討すべきラインとなります。警察への連絡に際しては、関連部門で判断を共有し、責任を個人に負わせない体制をつくることが重要です。

・記録の重要性
当コラムで繰り返しお伝えしていますが、「いつ・どのような発言があったか」を具体的に「時系列」に記録することが不可欠です。録音・通話記録・担当者メモを残しておくことで、社内判断や警察へ相談する際にも正確な情報を伝えることができます。

■実務に活かすための法的観点の知識共有

ここまで、脅迫行為が発生した際の実務的な対応を中心にお伝えしました。続いて、これらの判断の背景となる“法的観点”について整理します。お客さまに対して、刑法何条の何罪に触れる、とお伝えする必要はありませんが、法的知識を持つことで毅然とした対応につなげることができます。

前回は侮辱罪と名誉棄損罪についてお伝えしましたが、今回は脅迫罪と強要罪、恐喝罪を合わせてお伝えします。この3つはセットで押さえておくと理解しやすいと思います。
脅迫罪 → 強要罪 → 恐喝罪の順に重くなります。
脅迫罪は脅すだけですが、強要罪は脅して(または暴行して)相手に行動を強制することになります。さらに、恐喝罪になると脅して財物を奪う(被害が深刻な)行為となります。

・参考として

脅迫罪
刑法第222条(2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
生命・身体・自由・名誉・財産に対して害を加える旨の告知をすること

強要罪
刑法第223条(3年以下の拘禁刑)
脅迫または暴行により義務のないことを行わせること
強要未遂罪 刑法第223条3項(3年以下の懲役)

恐喝罪
刑法第249条(10年以下の拘禁刑)
恐怖心を抱かせて金銭や財物などを脅し取ること
恐喝未遂罪 刑法第250条(10年以下の懲役)

現場の担当者全員が刑法を熟読する必要はありませんが、「どの行為がどの犯罪に該当するか」をまとめておくと、対応に迷いが生じにくくなります。特に脅迫罪や強要罪は「被害者が恐怖を感じたか」が基準となるため、担当者が恐怖を感じた時点で組織として行動を起こしやすくなります。

■最後に

お客さま対応において、管理者は常に最悪の事態を想定しておく必要があります。特に脅迫行為があった際には、考えられるあらゆる事態を想定しておきます。何があっても迷うことなく方針を示すことができれば、メンバーや関連部署の安心にもつながります。

また、担当者へのメンタルフォローも忘れずに行うことが大事です。脅迫行為を受けた担当者は、強い心理的負担を感じます。対応後には、必ず上司などが声かけを行い、必要に応じて産業医やメンタルヘルス窓口に相談するなど、組織としてのフォロー体制を整えておくことが重要です。従業員が安心して働ける環境が守られてこそ、良質なお客さま対応が可能となります。

最後までお読みいただきありがとうございました。