カスタマーハラスメント対策特集

ACAPはカスタマーハラスメント対策を考える上で以下3点を前提としています。

  1. 消費者には「消費者の権利」があり、事業者には「責務」が定められています。
  2. 多くは善良な消費者であり、事業者にはその声を商品・サービスの改善、開発さらには 経営に活かすことが求められています。
  3. 事業者としては、初期対応が重要であり、安易にカスタマーハラスメントと決めつけないことが大事です。

一方、不当要求や行き過ぎた行為が行われ、働く環境が害される恐れがある場合、組織としての対応が必要となります。
お客様と従業員とは対等の関係にあります。お客様の尊厳を尊重するとともに、従業員の尊厳を主張することが求められています。
お客様対応は一人で行うことがあっても、難しいお客様に対しては組織で対応します。従業員を決して一人にしてはいけません。そのためにも対応方針を具体的に掲げ、様々なケースを想定した体制づくりが大事です。
このページでは、カスタマーハラスメント対策の取り組み方を正しく知って、働きやすい環境をつくるために支援を行います。

カスタマーハラスメント対策に関するコラム (ACAP専務理事 齊木 茂人) 

長時間対応、暴言などカスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題となっています。2023年秋に労災認定の基準に、カスハラが追加となりました。厚生労働省では事業者に対してカスハラ対策を措置義務とする動きが出ています。このコラムでは、カスハラとは何か、何を準備しどのように対応すべきか、みなさんと一緒に考えたいと思います。

第11回 ケーススタディ「威圧的な態度の方への対応」(公開日:2025年10月) NEW!

今回も、これまでにいただいた質問や事例を一緒に考えていきたいと思います。

【ご相談内容】

60代・女性、威圧的な態度の方への対応について

購入した商品の使い方に関する質問を電話でいただきました。調べてお答えするとお伝えしたところ「レベルが低い。そんなことも分からないの!〇〇っていうことぐらい即答しなさいよ!」「そんなんじゃ、左遷させるわよ!」「私は株主で会長とも懇意にしているから、社員を首にすることもできるのよ!」などの言動を威圧的にがなり立ててきました。他のメンバーが対応した際も、見下したような発言をされる方です。自分は他の人とは違い特別だという意識が強い方のようです。こちらの話をまったく聞かず、文句を言った後に消費生活センターへ苦情の電話をされたこともあります。いつまた電話がかかってくるかと思うと、会社に行くことが憂うつになります。

■次回入電時の対応方針

まずは、同じお客さまから入電があった場合の対応方針を、組織として決めておきましょう。
基本方針は、誰が受電しても威圧的な方という先入観を極力持たずに、丁寧に明るく接することです。質問があった場合は、あいまいな返答を避け、たとえ威圧的であっても確認が必要な内容なら、保留、または折り返しとします。その上で長時間になったり、威圧的発言や侮蔑的発言が続いたりした場合は、対応の「中断」もやむを得ません。

具体的には、質問の内容を復唱した上で、即答が難しい場合「確認いたしますので〇〇分ほどお待ちいただけますでしょうか」とお伝えします。この直後に前回と同様に威圧的な態度を取られた場合「即答できずに申し訳ございません」と限定謝罪をします。このときはできる限り冷静に、傾聴に徹するスタンスで接しましょう。間ができたところで改めて「確認いたしますので〇〇分ほどお待ちいただけますでしょうか」と繰り返します。「待てない」と言われた場合も「正確にお伝えするために確認いたします。〇〇分ほどお待ちいただけますでしょうか」とだけ繰り返します。

長時間に及ぶ威圧的発言が続く場合は、対応の「中断」を組織の対応方針としておきます。エスカレーション対応の準備をしておくのもよいと思いますが、対応「中断」の判断は1次応対者の裁量で可能とすることができるケースです。

■「要求」と「意見」を区別する

「左遷させる」「首にする」は、「要求」ではなく、お客さまの「意見」です。お客さまからの「要求」は質問に対する即答であるため、「即答はいたしかねるため、確認してご回答します」と一貫して返答します。お客さまの話は「意見」と「要求」に分けて考えることが大事です。「意見」については受け止めるだけで、返答の必要はありません。限定謝罪、または「ご意見として承ります」とお伝えすれば十分です。この考え方を組織の対応方針に含めます。管理者としては、怒って切電されても構わないということをメンバーに伝えます。

■威圧的な態度の方にも寄り添う

このケースでは「特別感の強い方」「こちらの話をまったく聞かない」という表現が出ましたが、筆者の経験上、威圧的な態度になる方の傾向として自尊心の高い方が多いと感じています。また孤独感や焦燥感を持っていらっしゃる方もその傾向があります。管理職の方や社会的地位の高い方、もしくはかつて高かった方にもそのような傾向が見受けられます。

そのような威圧的な態度になる方にも寄り添うことが大切です。まずは、受け止めたことを言葉で伝えましょう。例えば「そんなことも分からないのか」と言われた場合「勉強不足で申し訳ございません」と返答します。その上で「お客さま、よくそのようなことをご存じですね」「とても勉強になります。ありがとうございます」「他のメンバーとも共有させていただきます」といった感じでお客さまを褒めるような言葉がけもよいと思います。筆者は、これにより威圧的な態度になるお客さまのトーンが下がった例を多く見てきました。

■「時系列」の記録と「窓口1本化」の原則

ケースの中で、「消費生活センターへ苦情の電話を入れられたことがある」とありますが、きちんと対応できていれば、恐れる必要はありません。ただし、対応を「時系列」に記録しておくことが大事です。「時系列」には、お客さまの具体的な威圧的発言と要求に対して、担当者がきちんと答えようと努力した姿勢、さらに寄り添う姿勢の言葉などを具体的に記録しておきます。仮に消費生活センターから問い合わせが入っても「時系列」を示すことで理解を得ることができます。

また「窓口1本化」の原則から、お客さまが行政機関である消費生活センターへ相談・申し出をしたことを知った時点で、お客さまの窓口は消費生活センターに切り替わることになります。「恐れ入ります。消費生活センターにお問い合わせいただいたと伺いました。私どもとしては、消費生活センターの指示に従うことになります」とお伝えし、対応は「中断」すべき事案となります。消費生活センターが入ることで、組織としても対応しやすくなります。

きちんとした対応記録が「時系列」に残されていれば、たとえ会長に話が行ったとしても何も恐れることはありません。よって「会長に言うぞ」と言われた場合、そもそも返答する必要のないお客さまの意見ではありますが、あえて返答するのであれば「お客さまの判断にお任せします」で終わりです。「ご不快な思いをおかけし申し訳ございません」と限定謝罪で切り返すときも、仮に会長に話がいっても問題ないと心に余裕ができます。

事実かどうかはわかりませんが、「私は株主だ」ともおっしゃっています。念のため総務部など関連する部署に情報共有しておきましょう。発生事実と対応方針をお伝えし、苦情が入った場合はお客様対応窓口に連携をお願いしておきます。

■最後に

威圧的な態度になるお客さまの行為によって、会社に行くことが憂うつになるということはあってはならないことだと思います。寄り添う姿勢を示しつつ、初期対応をしっかり行い、組織としての対応方針を決めることが大事です。安心して働ける環境を、組織が一体となって作り上げていきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

カスタマーハラスメント対策研修

11月21日 (名古屋)カスタマーハラスメント対策研修(半日)
※年間研修スケジュールはこちら

書籍:現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック

2022年、ACAPに所属する現役お客様対応部門の責任者20名がプロジェクトを結成し、共同執筆しました。各社の豊富な対応経験に裏付けられた実践的なガイドラインです。