カスタマーハラスメント対策特集

ACAPはカスタマーハラスメント対策を考える上で以下3点を前提としています。

  1. 消費者には「消費者の権利」があり、事業者には「責務」が定められています。
  2. 多くは善良な消費者であり、事業者にはその声を商品・サービスの改善、開発さらには 経営に活かすことが求められています。
  3. 事業者としては、初期対応が重要であり、安易にカスタマーハラスメントと決めつけないことが大事です。

一方、不当要求や行き過ぎた行為が行われ、働く環境が害される恐れがある場合、組織としての対応が必要となります。
お客様と従業員とは対等の関係にあります。お客様の尊厳を尊重するとともに、従業員の尊厳を主張することが求められています。
お客様対応は一人で行うことがあっても、難しいお客様に対しては組織で対応します。従業員を決して一人にしてはいけません。そのためにも対応方針を具体的に掲げ、様々なケースを想定した体制づくりが大事です。
このページでは、カスタマーハラスメント対策の取り組み方を正しく知って、働きやすい環境をつくるために支援を行います。

カスタマーハラスメント対策に関するコラム (ACAP専務理事 齊木 茂人) 

長時間対応、暴言などカスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題となっています。2023年秋に労災認定の基準に、カスハラが追加となりました。厚生労働省では事業者に対してカスハラ対策を措置義務とする動きが出ています。このコラムでは、カスハラとは何か、何を準備しどのように対応すべきか、みなさんと一緒に考えたいと思います。

第14回 ケーススタディ「暴力行為への対応」(公開日:2026年2月) NEW!

前回は脅迫行為への対応でした。今回は、暴力行為への対応について一緒に考えていきたいと思います。

【ご相談内容】

40代・男性、暴力行為への対応

店舗で大声をあげてカウンターを蹴ったり、叩いたりする方がいました。胸ぐらをつかまれたこともありました。組織的に対応するための対応方針を定め、対応者や面談時の体制を決めていましたが、怖い思いをしました。1回は警察に出動を要請しました。

対応方針があったとしても、心理的負担は大きいものです。最近は激高されることはありませんが、いつどうなるかという不安もあります。このような場面では、どう対応したらよいのでしょうか。また、心理的負担を軽減する対策などはあるのでしょうか。

■暴行の現状

暴力行為はあってはならないことですが、お客さま対応の現場ではこのようなことが実際起きています。この数年間で筆者が相談を受けた事例の一部を紹介します。

  • 店舗内にて説明中に、怒り出し蹴られた
  • 突然激怒し、首をつかまれ外まで引きずり出された
  • 手元にある用紙を握りつぶして投げつけられた
  • いきなり頭をつかまれ押さえつけられた
  • 案内カウンターの中に入り込まれカウンターを蹴られた
  • 鞄を投げつけられた

これらの多くは突然起きているように見えても、直前に怒鳴る、距離を急に詰める、威圧的な態度になるなど、何らかの危険サインが見られることが少なくありません。
このような場面で、どのように対応したらよいか考えてみましょう。

■暴行の未然防止のために

暴行を受けてしまってからでは手遅れです。暴行を受けないためにはどうしたらよいかを考えてみましょう。

暴行の恐れがある場面では、相手を納得させようと説明を重ねたり、正論で説得しようとしたりする必要はありません。会話は最小限にとどめ、安全の確保を最優先とします。

過去に大声や暴言など威圧的な行為や態度などがあった方に対しては、対応履歴を「時系列」に残しておきます。その上で、次に来店などがあった際は、2人で対応することを基本ルールとします。初めての方でも、最初の言動などから、手足の届かない距離の確保や、間にカウンターなどを挟むことを考えます。暴行の前には、感情的になるなど何らかの危険サインが出ます。危険サインを見逃さず、人・時間・場所の変更を検討します。

■まずは距離を置く

法的には、相手の身体に向けられた、有形力(※1)の行使があれば、直接身体に触れていなくても、物を投げつけられる、机をたたかれるなどの行為も暴行罪につながる可能性があります。

暴行を受けた場合、その場から離れること、第三者に助けを求めることが大事です。施設や店舗でお客さまからの暴行に遭う可能性のある方は、回避ルートと誰にどのようにして助けを求めるかまでシミュレーションをしておかなければなりません。

筆者がショッピングセンターの現場研修を行った際、案内係の方から、激怒したお客さまがカウンターの中に入って来たとき、逃げ場がなくて困った、との相談を受けました。その現場研修では、カウンターを乗り越えて逃げる手順まで一緒に考えることにしました。

※1 「有形力」とは、主に暴行罪などの刑法上の概念で、故意に人の身体に向けられた物理的な力をいいます。身体に直接触れていなくても、物を投げつける、机やカウンターを強く叩くなど、相手の身体に向けられた力であれば該当する場合があります。このような有形力を用いる行為を、「有形力の行使」と呼びます。

■警備員への連携

警備員が配置できている場合、警備員への連絡方法をシミュレーションしておきます。警備員が普段どのような巡回ルートを取っているのか、緊急通報後はおおよそ何分で到着するのかを確認しておく必要があります。

大型店舗やショッピングモールなどで警備員が巡回している場合は、3分~6分ほどかかると考えられます。警備員に緊急通報するタイミングは、暴言や脅迫的発言などの危険サインが出たときです。内線番号を周知しておくだけでなく、目の前にお客さまがいる状況でどのように伝えるのか、関係者間で共有しておくことが安心につながります。

■録画の体制

施設や店舗には、「防犯カメラ作動中」の掲示をしていただきたいと思います。筆者の研修を受けたある施設では、5メートル間隔で掲示を行っています。雰囲気や景観を気にする店舗の場合は、デザイン性のあるステッカーの作成など、工夫が必要でしょう。

現在は、録画だけではなく、AIを活用したカスハラ行為の未然防止システムの研究開発も進められているようです。

■警察への相談

怪我などがなくても、暴行を受けた場合は速やかに警察に相談することをおすすめします。被害の状況次第となりますが、被害届ではなく、生活安全課に相談をします。警察への相談は、直ちに刑事処分を求めるためだけではなく、再発防止や組織としての判断材料を残す意味があります。後日、発生した事実を具体的に時系列でまとめ、必要に応じて警察に持参するとよいでしょう。防犯カメラによる録画や録音があると、発生事実が具体的に伝わります。平常時から警察の生活安全課とのコミュニケーションが取れていると安心です。

■施設管理権に基づく出入り禁止の宣告

暴行を受けた際には、契約自由の原則と施設管理権に基づく出入り禁止の検討を行います。時系列の記録を基に、警備員や警察にも相談の上、組織として判断するとよいでしょう。

出入り禁止の判断は、組織判断となりますが、相手に出入り禁止を伝えるかどうか、伝える場合は、誰からどのように伝えるかを関係者と協議します。再訪問があった際の対応手順まで決めておくことが大事です。

■心理的負担を軽減するために

暴行の可能性を感じて不安になるのは、対応者としてごく自然な感情です。心理的負担を軽減するためには、なぜ心理的負担がかかるのかを考え、その原因を除去することが欠かせません。

「もし、また同じ人が来たらどうしよう」、「他のお客さまも暴行被害を受けるかもしれない」、「どう対応したらよいかわからない」と、誰もが不安になります。

すべてを一人で対処しないといけないと考えると、不安はさらに大きくなります。不安を除去するためには、カスハラ方針を掲げるだけでは不十分です。方針に基づき、対応の中止や出入り禁止に向けた手順までが社内で共有されていることが重要です。関連部門や警備員、警察などの支援体制が整えられていなければなりません。

対応が難しいお客さまの迷惑行為をゼロにすることはできません。現場の管理者として大事にしていただきたい心構えは、暴行など最悪の事態を常に想定しておくことです。最悪の事態に備えた準備ができていれば、その範囲で発生した出来事に余裕をもって対応できます。筆者が全社横断的相談窓口の立場で心理的負担を軽減できていたのも、常に最悪の事態を想定していたからだと考えています。

・参考として

暴行罪
刑法第208条(2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
暴行を加えたが人を傷害するには至らなかった場合

傷害罪
刑法第204条(15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
(暴行などによって)人の身体を傷害した場合

最後までお読みいただきありがとうございました。

カスタマーハラスメント対策研修

11月21日 (名古屋)カスタマーハラスメント対策研修(半日)
※年間研修スケジュールはこちら

【厚生労働省】

■労働施策総合推進法の改正(令和7年6月11日公布)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html

■顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)について
・カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
・カスタマーハラスメント対策リーフレット
・カスタマーハラスメント啓発ポスター
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html#h2_free12

■あかるい職場応援団
カスタマーハラスメントを知っていますか?
カスタマーハラスメント対策動画(齊木専務理事登壇)

【消費者庁】

・カスタマーハラスメント防止のための消費者向け普及・啓発活動
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/harassment_from_customer

【東京都】

・東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和7年4月1日施行)
・カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)令和6年12月19日
・カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)令和7年3月
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_jourei/index.html

書籍:現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック

2022年、ACAPに所属する現役お客様対応部門の責任者20名がプロジェクトを結成し、共同執筆しました。各社の豊富な対応経験に裏付けられた実践的なガイドラインです。