カスタマーハラスメント対策特集

ACAPはカスタマーハラスメント対策を考える上で以下3点を前提としています。
- 消費者には「消費者の権利」があり、事業者には「責務」が定められています。
- 多くは善良な消費者であり、事業者にはその声を商品・サービスの改善、開発さらには 経営に活かすことが求められています。
- 事業者としては、初期対応が重要であり、安易にカスタマーハラスメントと決めつけないことが大事です。
一方、不当要求や行き過ぎた行為が行われ、働く環境が害される恐れがある場合、組織としての対応が必要となります。
お客様と従業員とは対等の関係にあります。お客様の尊厳を尊重するとともに、従業員の尊厳を主張することが求められています。
お客様対応は一人で行うことがあっても、難しいお客様に対しては組織で対応します。従業員を決して一人にしてはいけません。そのためにも対応方針を具体的に掲げ、様々なケースを想定した体制づくりが大事です。
このページでは、カスタマーハラスメント対策の取り組み方を正しく知って、働きやすい環境をつくるために支援を行います。
カスタマーハラスメント対策に関するコラム (ACAP専務理事 齊木 茂人)
長時間対応、暴言などカスタマーハラスメント(以下カスハラ)が社会問題となっています。2023年秋に労災認定の基準に、カスハラが追加となりました。厚生労働省では事業者に対してカスハラ対策を措置義務とする動きが出ています。このコラムでは、カスハラとは何か、何を準備しどのように対応すべきか、みなさんと一緒に考えたいと思います。
第12回 ケーススタディ「激高されている方への対応」(公開日:2025年12月) NEW!
今回も、これまでにいただいた質問や事例を一緒に考えていきたいと思います。
【ご相談内容】
40代・男性、激高している方への対応について
電話に出るといきなり怒鳴りはじめたお客さまがいました。2日前に受電した応対者の対応が気に入らなかったようです。「お前はバカだ!クズだ!クーズ!」と激高され、内容の詳細も伺いづらい状況で怖くなりました。このように激高された際の対応方法はどうしたらよいでしょうか。

■冷静な対応を行うことが大事
いきなり怒鳴られ、激高された場合であっても、冷静さを失わないことが大事です。詳細を伺わなければいけないと考えると焦ってしまい、冷静になれません。いきなり激高されている方に対しても「限定謝罪」を忘れずに行いますが、詳細を伺うのではなく、聴くに徹することだけを意識するとよいです。「あいづち」を入れながら「話を聴くだけ」、と考えれば冷静になれます。冷静になれれば、激高している背景に目を向けることもできます。
「バカ」「クズ」「クーズ」などの暴言に対しては「バカということでしょうか」「クズですね」と柔らかいトーンを意識しつつ、少し大きめの声で復唱します。復唱をすることで、上長や他のメンバーに、対応が困難なお客さまからの入電だと気づいてもらいます。上長などが横に付いてくれることで安心して対応ができます。途中で説明したいことがあっても、お客さまがすべてを話し終えるまで待ちます。話し終えた後に、再度「限定謝罪」を行い、詳細を伺うようにします。
■人・時間の変更を検討する
相手が激高し、暴言を受けた場合、初期の段階から人・時間を変えることを考えます。大事なマインドとしては一人で頑張りすぎないことです。スキルのある方やベテランの方ほど「大ごとにしたくない」「自分で解決できる」と頑張り過ぎる傾向にあります。責任感を持つことは大事ですが、激高しているお客さまに対して頑張り過ぎる必要はありません。
応対者の変更は、エスカレーション対応となりますが、お客さまに落ち着いてもらうために有効な対応策となります。お客さまではなく1次応対者が主導権を持って変更の判断ができるとよいです。対応者の交代を想定して、お客さまが激高している様子や具体的な発言をメモにします。上長は、復唱などにより対応が困難なお客さまと察知した瞬間、横についてメモを見ながら、いつでも代わることができるという姿勢を1次応対者に伝えます。
時間の変更は、対応の「中断」を指します。時間を置くことにより冷静になっていただくことが狙いです。様々な「中断」の方法があります。「保留」もその一つですが、1分以内を目安に保留の時間をお客さまにお伝えします。電話を一度切って、折り返しの電話とする方法もあります。できる限りお客さまの話が途切れたタイミングをねらいます。激高している時間の長さや程度にもよってはエスカレーション対応としますが、人を代える際も対応を「中断」することになります。交代後も同様の暴言が続く場合は、忠告や警告を行った上で「本日の対応はここまでといたします」として対応を「中断」させます。
■公然性を要件とする「侮辱罪」は成立しにくい
「バカ」「クズ」などの言葉は法律に触れるのか、といったご質問をいただくことがあります。
刑法231条「侮辱罪」や刑法230条「名誉毀損罪」は、第三者が認識できる状況でなければ成立しない「公然性」を要件とする犯罪です。
したがって、1対1の電話で「バカ」「クズ」などと言われた場合には、侮辱罪が成立する可能性は低いといえます。SNSなど多くの人が閲覧できる場で同様の発言を行った場合には、刑事罰の対象となる可能性があります。

「侮辱罪」は「バカ」「クズ」など、具体的な事実に基づかない抽象的な侮辱的表現に対して適用されます。一方「名誉毀損罪」は、「この会社は詐欺をしている」「担当者が不正を行った」など、具体的な事実(真偽は問わない)を示して発言し、その結果として相手の社会的評価を低下させる場合に成立します。
電話で激高され「バカ」「クズ」などの言葉を浴びせられ、精神的苦痛を受けた場合には、民法709条の不法行為として慰謝料請求が認められる可能性があります。この場合には、侮辱罪などと異なり、公然性は要件とされません。
お客さまに対して「刑法第○条に抵触します」といった法律用語を用いて説明する必要はありません。しかしながら、お客様の発言や行動がどのような法律に関わる可能性があるかを知っておくことは大切です。法的な仕組みを理解しておくことで、より毅然と、かつ冷静に対応することができます。
■最後に
多くの苦情は商品やサービス、会社に対してのことです。応対内容に対して非難されたとしても組織の方針として打ち出した回答についての苦情です。激高されているお客さまの場合、お客さまの申し出を自分ごととして捉えるのではなく、自分自身を第三者的な立場として捉えることが大事です。この考え方を持つことにより冷静になることができます。心の中で「お客相談室は舞台であって、応対者は役者となって演技すればよい」といった気持ちを持つと冷静になれます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
過去のアーカイブ
- 第11回 ケーススタディ「威圧的な態度の方への対応」(公開日:2025年10月)
- 第10回 ケーススタディ「返答に納得されない方への対応」(公開日:2025年9月)
- 第9回 ケーススタディ「長時間対応」(公開日:2025年8月)
- 第8回 カスタマーハラスメント対応マニュアル作成のポイント(公開日:2025年6月)
- 第7回 カスタマーハラスメント対応方針作成のポイント(公開日:2025年5月)
- 第6回 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の要点解説(公開日:2025年4月)
- 第5回 ACAP定点調査結果から見るカスタマーハラスント対策の現状(公開日:2025年3月)
- 第4回 カスハラ発生を未然に防ぐための8つのフロー(公開日:2025年2月)
- 第3回 カスハラ対策として何を準備するか、対策のポイントは何か(公開日:2024年12月)
- 第2回 カスハラの判断基準 どこからがカスハラか?(公開日:2024年11月)
- 第1回 トピックス&カスハラ対策4つの視点(公開日:2024年10月)
カスタマーハラスメント対策研修
関連情報リンク
【厚生労働省】
■労働施策総合推進法の改正(令和7年6月11日公布)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
■顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)について
・カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
・カスタマーハラスメント対策リーフレット
・カスタマーハラスメント啓発ポスター
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html#h2_free12
■あかるい職場応援団
・カスタマーハラスメントを知っていますか?
・カスタマーハラスメント対策動画(齊木専務理事登壇)
【消費者庁】
・カスタマーハラスメント防止のための消費者向け普及・啓発活動
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/harassment_from_customer
【東京都】
・東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和7年4月1日施行)
・カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)令和6年12月19日
・カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル(業界マニュアル作成のための手引)令和7年3月
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuhara_jourei/index.html
書籍:現場責任者のための「悪質クレーム」対応実務ハンドブック
2022年、ACAPに所属する現役お客様対応部門の責任者20名がプロジェクトを結成し、共同執筆しました。各社の豊富な対応経験に裏付けられた実践的なガイドラインです。


